これからの傷の治療について

閉鎖療法に関しては、夏井氏のホームページhttp://www.wound-treatment.jp/に詳しく述べられているが、ここでは私自身の言葉で述べてみたい。


閉鎖療法との出会い

私がなぜ閉鎖療法を行うようになったかというと、指尖部外傷で末節骨の半分を失った患者さんの治療に難渋したからだ。指尖部外傷では、これまではその損傷範囲が大きい場合、断端形成を行うことが多く、治療によってさらに指が短くなる。手の外科の専門ではない私は、断端形成を行うべきかどうかを迷いながら治療し、結局、無理矢理縫合したために数日後に傷は開いてしまった。そのときに、大学時代の先輩から「こんな方法もあるよ。」と紹介されたのが、夏井氏の閉鎖療法のホームページだった。以前からそのホームページがあることは知っていたが、なんとなく通り過ぎていた。しかし、そのときの私は何とかして患者さんの指を短くしないで治療できないものかと考えていたときだったので、すがる思いであった。はじめはもちろん半信半疑であり、本当にうまくいくのだろうかと不安でもあった。しかし、よくよく内容を見ているうちに、なんだかうまくいきそうな気がしてきた。これまでは消毒もしない、ガーゼも当てない治療なんて考えられなかったが、それは理論的に正しかったからだ。私がこれまで先輩から教わってきた内容とは明らかに違っていたが、それが正しいと思えた。閉鎖療法を実際に患者さんに行うにあたって、患者さんも協力してくれて、「先生が言うんだったら。」と任せてくれた。一日一日、患者さんの傷の状態が良くなっていくのを見て、患者さんも私も納得した。


閉鎖療法とは

閉鎖療法という表現よりも湿潤療法という表現の方が正しいかもしれない。また閉鎖療法という呼び方は、その治療の意味を一部分しか表現していない。ここでいう閉鎖療法とは、傷の消毒をしないこととガーゼを当てないこと、すなわち、傷を乾燥させずにウエット(湿潤)な状態にしておくことである。


なぜ傷を消毒してはいけないか

傷は皮膚や皮下組織などが損傷を受け、正常な機能が破綻している状態である。人間(人間だけではないが)のからだには自ら治癒しようとする力がある。基本的に皮膚や皮下組織には血管があり血液が流れている。傷に血液から傷を治癒しようとする物質が集まり、正常な細胞を作り元の状態にしようとする力が働く。こういった細胞は生きているものであり、環境が悪ければすぐに死んでしまうほど弱いものである。消毒には悪玉と呼ばれている細菌(ばい菌)を殺す作用もあるが、同時に正常な細胞も殺してしまう。これまで消毒薬には、こういった作用があることはわかっていたが、細菌をなくさなければ傷は感染して化膿すると思われてきた。しかし化膿するには別の理由があることを忘れていた。


傷が化膿する理由

それは異物の存在である。異物といっても、ちょっとわかりにくいかもしれないが、たとえばトゲを刺したままにしておくと、そこから細菌が入って化膿することは知られている。しかし、すぐにトゲを抜いてしまえば何ともないことが多い。トゲ自体も異物であるが、出血して固まった血液も、挫滅して死んでしまった皮膚も異物になる。これら異物が残っていると細菌が繁殖しやすい状態になる。これが化膿である。


ガーゼを当てない理由

これまで傷にガーゼを当てるのは当たり前だった。ガーゼには傷から出る血液や浸出液を吸い取る作用がある。また表面的に傷を覆い、一見、愛護的にも見える。消毒をしてはいけない理由の項でも述べたが、傷が治癒するときに増殖する正常な細胞は極めて弱いもので、これは乾燥に対しても同じである。乾燥という環境は正常な細胞が育つにあたって極めて厳しい状態である。ガーゼをあてると乾燥させて湿潤環境にはならない。


傷の治療の原則は、毎日ただ漫然と消毒をすることではなく、傷の状況を把握することである。その上で、どのように異物を取り除き、湿潤な環境を作るかである。いずれにしても傷の状態をしっかり観察し把握することには変わりはない。これは傷に限った話ではない


最終更新日:2004.04.18
Warning
以下,実際の画像を交えて治療法を説明するが,一部に生々しいものや痛々しい画像があるため,心臓の弱い方などは見ないようしていただきたい。
また画像の公開に関しては患者さんの承諾を得た上であることを,あらかじめお断りしておく。

最終更新日:2010.05.08


熱傷2