熱傷1

 

熱傷においても湿潤療法が有効であることは言うまでもない。いくつかの注意点が必要だが、下腿熱傷の患者さんを経験したので供覧する。

 

74歳、女性。高血圧症にて降圧剤を内服中、糖尿病もあり食事・運動で空腹時血糖102HbA1c 5.9とコントロールは良好であった。平成17年12月27日に、やかんの熱湯を左下腿にかけて熱傷受傷した。その後、自分で市販の軟膏とガーゼで処置していたが、創が広がったといって平成18年1月5日に来院した。


画像1

熱傷の大きさは14×7cm、周辺部は深い2度で中心部の所々は3度の熱傷と判断した(画像1)。周辺に患者さんが使用していた軟膏(クリーム?)の付着がある。


この時点で3度(皮下組織まで)という深い熱傷であり、治癒までは時間がかかること、患者さん本人に処置してもらい、もし発熱や疼痛の増強など変化があったら来院してもらうことを話して、食品包装ラップを用いた湿潤療法で加療をすすめる方針とした。創部にプラスチベース:アズノール軟膏=9:1を塗ってラップをあて、その上にタオルで浸出液を吸い取るようにしてもらった。創痛は少しあったが我慢できる範囲で、抗生剤や消炎鎮痛剤の投与は行わなかった。


画像2

平成18年1月13日(8日目)、創痛はなかった。ラップを貼った状態(画像2)。浸出液によってタオルは1日に3回交換していた。毎日、入浴して創の周囲も洗ってもらっていた。


画像3

ラップをとったところ。感染の徴候はなく創の周辺から上皮化がすすんできた(画像3)。周辺に痒みが出てきたためステロイド軟膏(リンデロンV)を使用開始した。


画像4


平成18年1月19日(14日目)、創の周辺部の上皮化はさらにすすんでいるが中心部は壊死に陥っている部分(黄色い部分)もある(画像4)。傷の痛みはない。感染の徴候はない。


画像5


平成18年2月6日(32日目)、前回と比べてスピードはやや遅くなっているが、上皮化はすすんでいる(画像5)。


画像6

平成18年3月10日(64日目)、さらに創は縮小している(画像6)。壊死して自己融解した部分(黄色い部分)は小さくなっている。


この患者さんの場合、受傷してすぐに来院すれば3度という深い熱傷にならずに済んだかもしれないが、残念ながらガーゼを使用して処置をしてしまったことが重症化した原因かもしれないと考える。少しずつだが確実に創は縮小しており、今後もこの治療を継続する予定である。なにより、この治療法で患者さんのQOLが保たれており現在の生活をする上で支障がないことが最も重要な点である。熱傷のラップ療法において注意する点は、時に発熱がみられることがあるということである。詳しい原因は不明だが何例か報告されているため、ラップでなく三角コーナー用水切り袋がいいという意見もある。また、この患者さんの場合、3度熱傷であり植皮も考慮に入れながら治療しなければならないと考えられる。

最終更新日:2006.03.12