漢方のページ
漢方を始めた理由
 私にとっての漢方薬のイメージは「副作用は少ないが効果が弱い」や「慢性の病気になんとなく有効」といった、どちらかと言えば負のイメージであった。私は「多少の副作用があっても、はっきりと効果が見えるクスリ」や「すぐに効くクスリ」が好みであったので、漢方は自分とはかけ離れた存在であったのだ。しかし、こういった強力なクスリには、やはり副作用がつきもので経験はないが時には死に至ることもある。安易に使うべきではないのだなと反省するようになった。今思えば20年前、学生時代に親から送ってもらったと言って「葛根湯カッコントウ」をのんでいた友人のS君や、15年前に術後の患者さんみんなに「補中益気湯ホチュウエッキトウ」を処方していた先輩は、私に比べればずっと先見の目を持っていたと言わざるを得ない。そこまで自分の考えが変わっていったのは、なぜだろうか。
2007.4.23 つづく
 私が漢方に興味を持った直接の理由は、「カゼ」の治療という壁にぶつかったからだ。自分では外科医だと思ってきたので、カゼの治療は片手間で良いかな程度で始まった。しかし、それどころか開業して最も多い患者さんはカゼではないか、片手間どころか、これを真面目にやらなければいけないと思うようになった。昔、細菌感染が多かった時代にはカゼに抗生剤がよく効いたらしい。しかし現代、その原因の90%以上を占めるのはウイルスである。そうすると自然に治癒するのを待つしかなくなる。できるのは症状を軽減する対症療法であり、使用するのは消炎鎮痛剤などが中心になる。しかし最近、消炎鎮痛剤はカゼの治癒を遅らせるという報告が出てきた。よく考えてみると当たり前だった。人間の体は、熱を上げたり鼻水を出したり咳を出させたりしてウイルスをやっつけようとしていた(正常な生体の防御反応)のに、それを押さえたら治癒が遅れるのは当然である。そうすると、カゼの治療はどうしたらいいんだと言うことになる。「何もしないのが一番だよ」という極論が出るのもうなずけるが、苦痛を持った患者さんに何もしない手はない。そんなときに漢方に出会ったのだ。テレビのCMで「インフルエンザに漢方薬が保険適応になってます」と言っていた。タミフルがあるのに、なんでかなって思って、ちょっと調べてみたくなってきた。「麻黄湯マオウトウ」がどうやらインフルエンザに効果があったようなのだ。さらに拍車をかけたのがタミフルの乱用とも思われる様々な副作用の疑い例、そしてタミフル耐性ウイルスの出現。日本の医療はちょっとタミフルの使い方を間違えたんじゃないのかなと思っていた矢先だった。
2007.4.25 つづく
 こういう時に、ちょうどいいタイミング(?)で、うちの子供がインフルエンザになってくれた。やっぱり実験材料は身内からでしょう。使ってみると、確かに熱が少し上がってから解熱するようだ。副作用もなさそう。でも、熱性けいれんになりやすい子供さんは、ちょっと注意が必要だな。まあ、どっちにしても注意は必要だけど。

これまで、腰痛や膝痛で継続して消炎鎮痛剤を内服している患者さんがカゼをひくと、治りが悪いという印象を持っていた。他にも要因があると思うが、年々カゼの治りが悪くなるような感じもあった。だいたい、発熱に解熱剤という考え方は、もうだいぶ古い考え方で、人間の体がわざわざ発熱して熱に弱いウイルスをやっつけようとしているのを止めさせるのだから、いいハズはない。だから最近、インフルエンザの時はなるべく解熱剤を使用しないようにしましょうって言っているのに、まだわからない人がいるのねえ。熱に弱い特殊な病態の人を除いていては、もう発熱がどうのこうのっていうのは、止めたいものですねえ。

だからといってカゼもインフルエンザもすべて漢方でOKとは思っていない。やはり養生が基本で、安静や保温、水分や栄養といった当たり前のことをやった上で、危険なサインを見落とさないことだ。特に乳幼児や高齢者などの抵抗力の弱い人は注意が必要である。漢方といえど、クスリは毒にもなるのだ。また漢方が良い理由は材料が天然のもの(葉っぱや根っこ)というのもある。だから効果は弱い部分もあるかもしれないが、人間のからだには優しいのだ。最近のクスリは、ほとんどが化学合成して造られることを考えれば、中国2000年の歴史は侮れない。ただ、漢方の使い方は決して簡単ではない。証といって体質やタイミングが合わなければ効果が得られないこともある。その辺を今、勉強中である。
2007.5.10 つづく

これまでに使ってみて(または自分で内服して)、手足の冷えには西洋薬で有効なのはなく好印象だった。また、大きな声では言えないが、ある漢方をたまたま内服していたら二日酔いがかなり軽かったという、うれしいものまであった。

西洋薬が病気に対しての治療としたら、漢方薬は人間に対しての治療としたら言いすぎであろうか。私は、こんな時代だからこそ漢方の可能性に期待したいと思っている。ちなみに私はツムラさんとは深い付き合いはありません。
2007.5.29 おわり

最終更新日:2007.06.01